17 判決事例
平成22年4月6日判決言渡,同日原本交付裁判所書記官
平成21年(ワ)第364号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日・平成22年2月9日
判決
兵庫県○○市○○
原告○○○○
訴訟代理人弁護士佐野隆久
東京都○○区○○
被告○○○株式会社
代表者代表取締役○○○
訴訟代理人弁護士○○○○
主文
1 被告は,原告に対し,1273万5785円及びこれに対する平成15年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,うち1を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,2280万8396円及びこれに対する平成15年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,道路上に停車した自動車の右扉を,運転手が後方を確認せずに開けたため,傍を自転車で通り抜けようとして衝突したことにより,鎖骨を骨折して変形治癒したと主張する原告が,上記自動車運転手の雇用主を被告として,民法715条に基づく損害賠償とこれに対する上記事故日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1)平成!5年11月9日午後5時20分ころ,奈良市西大寺栄町2番12号先路上で,被告従業員の○○○○が,運転していた普通貨物自動車(以下「被告車」という。)を道路左側に停車して,右扉付近に立ち乗車しようと扉を開けるにつき,後方を十分に注意して付近を通行する者の安全を確認した上で扉を開ける業務上の注意義務があるにもかかわらず,これを怠り,漫然と右扉を開けた過失により,建踏み自転車で後方から走行してきた原告に被告車の右扉を衝突させて,路上:に転倒させ,原告に左鎖骨骨折の傷害を負わせる事故が発生した。(以下「本件事故」という。その状況は別紙交通事故現場見取図のとおりである。)
(2)被告は○○を雇用しており,○○は被告の業務執行にっき本件事故を惹起したものであり,被告は本件事故により民法715条の賠償責任を負う。(弁論の全趣旨)
(3)原告は,本件事故日から平成16年11月29日まで○○病院で通院治療を受け(実通院自数20日),平成17年7月2日から平成19年3月16日まで○○整形外科へ通院(実通院15日)して,同日症状固定と診断された。その治療費は19万4357円,通院交通費は2250円,文書料は300円を要した。(甲3,4の1ないし3)
(4)原告は,自賠責保険により,左鎖骨の変形治癒により自賠法施行令2条の別表2(以下「後遺障害等級表」という。)の12級5号に該当すると認定され,283万1642円の支払を受けた。(甲5,6,弁論の全趣旨)
2 争点
(1)原告に生じた,前記1(3)以外の損害額(原告の主張)
ア 休業損害1170万3888円
原告は専業主婦であり症状固定時までの1224日休業したから,平成15年賃金センサスによる女性学歴計全年齢の平均賃金349万0300円」をもとに算定すると,休業損害は次のとおり1170万3888円となる。
3490300÷365=9562,9562×1224=11703888
イ 逸失利益803万5753円
症状固定時に原告は31歳の女姓であり,平成/9年賃金センサスによる女性学歴計全年齢の平均賃金346万8800円をもとに,後遺障害等級表12級の労働能力喪失率14%とし,労働可能残年数は36年であるからこの間の中間利息をライプニッツ方式で控除すると,逸失利益は次のとおり803万5753円となる。
3468800×0.14×16.547=8035753
ウ 慰謝料363万円
通院慰謝料は73万円,後遺症慰謝料は290万円が相当である。
エ 弁護士費用207万3490円
(被告の主張)
ア 原告は,左上肢の安静が必要であったとするが,装具は1日か2日で外してしまっと供述しており,また痛みがあったので受診していたとするが,投薬があったのは平成15年11月だけであり,株式会社ベルシステム24での1か月のみ休業があったとみるべきである。症状固定も,平成15年12月以降は積極的な治療は行われていないし,鎖骨骨折は通常6か月で症状固定するといわれているから,平成16年6月21日には症状固定したとみるべきである。
イ 上記アのような治療の経過からして原告に特段の痛みはなかったものと考えられ,結局後遺症は醜状障害のみであるから,逸失利益はないものとすべきである。
ウ エは争う。
(2)過失相殺
(被告の主張)
本件事故は○○が被告車に乗車しようとして運転席側の扉を開けている状態で発生したものであり,原告としては○○が侮らかの動きをするであろうことを知り得たのであり,また,○○の体が扉よりも外側に位置しており,その体ないし自転車が接触したと考えられるのに,扉と当たったと原告は供述しており,原告には明らかな前方不注視があった。原告の過失は決して小さいものではなく,20%の過失相殺がされるべきである。
(原告の主張)
本件事故では,被告車の横,原告のわずか2ないし3m前を他の自転車が通過しており,扉の開放を予測させる事情はない。単車との扉開放事故における過失割合は10対90であり,自転車の過失割合を10%減算すると,原告の過失割合は0%となる。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(損害額)について
(1)休業損害346万6393円
甲1,乙1,2,5,6,原告本人(甲10を含む,以下同じ)によれば,次のとおり認められる。
本件事故当時,原告は28歳で,派遣社員として株式会社○○で電話オペレーターとして稼働しており,病気のため介護の必要な実母と奈良市で同居していたが,本件事故後は保存的療法となり,クラビクルバンドで固定していたが,左肩等の痛みのため仕事ができず,派遣会社から求められて退職した。原告は,本件事故前から夫と婚約しており,体調が戻るのを待って婚姻しようとしていたところ,妊娠したため,平成16年7月7日に婚姻届け出をしたが,同年12月ころまでは実母とともに生活していた。
上記妊娠のため,同年4月19日を最後にX線撮影はできなくなったが,同年6月に十分な骨癒合は得られていなかった。同年12月ころから夫とともに○○市で生活するようになり,専業主婦となったが,平成17年1月12日に長男を出産し,奈良市の実母方へ通うなどしていたため,同年7月に伊熊整形外科へ通院するまで8か月余り通院できなかった。同月2日に「は「骨はOK,変形のみ」と診断され,骨癒合が診断されている。その後の通院は平成18年2月,平成19年3月と間隔が開き,通院回数も多くなく,同月16日の診断で症状固定と診断された。原告は左上肢の固定をしなくなってからも,左肩と腕の痛みを訴え,重い物を持つことができず,布団の上げ下ろしや買い物に夫や義母の手助けを要し,長男出産後は,子供を左手で抱くことができず,授乳も搾乳して与えていた。
上記認定事実によれば,原告は,本件事故後も介護を要する実母とともに生活しており,保存的療法を受けていたことから,家事労働の休業損害が生じており,全く家事労働ができなかったものとは考えられないけれども,平成16年6月にも十分な骨癒合は得られておらず,ど同年7月ころまでは同様の状糠が続いたものと推認されることから,本件事故後平成16年7月までの約9か月程度は通常の3分の1程度の家事労働しかできなかったものと認められる。その後平成19年3月16日に症状固定と診断されるまでは,平成18年2月から1年余り通院していないこと,平成17年7月には骨癒合と診断されていることからすると,平成16年8月から平成17年7月までは,妊娠等の影響もあったとはいえ,安静加療の必要があり,通常の2分の1程度の家事労働しかできなかったが,その後の症状固定までの全期間休業の必要があったものとは認められない。
そうすると,平成15年賃金センサスによる女性学歴計全年齢の平均賃金349万0300円をもとに,休業損害を算定すると,次のとおり346万6393円となる。
(3490300÷365×270×2/3)十(3490300÷365×365×1/2)≒3466393(円来満切捨て,以下同じ。)
(2)逸失利益811万0308円
前記第2の1(4)のとおり,原告の後遺障害は後遺障害等級表12級5号と診断されており,これは前記(1)認定のとおり原告が左肩と腕に今でも痛みを感じていること,左鎖骨骨折部の変形治癒という他覚的所見とよく符合している。
被告は,上記後遺症は,醜状障害のみで逸失利益は生じていないと主張するけれども,原告が未だに左肩と腕に痛みを感じてそのために家事育児に支障があること,そのために家事育児に支障があることは前記(1)認定のとおりであり,労働能力は上記等級相応に喪失したものといえるから,被告の上記主張は理由がない。
前記(1)のとおりほぼ症状固定と判断される平成17年7月当時29歳であった原告の逸失利益は,平成17年賃金センサスによる女性学歴計全年齢の平均賃金343万4400円をもとに,67歳まで年5分の中間利息をライプニッツ方式で控除すると,次のとおり811万0308円となる。
3/134900×0.14×16.86'78≒8110308
(3)慰謝料335万円
通院慰謝料は,通院11日数自体は比較的少ないことから,55万円をもって相当と認める。後造症慰謝料は280万円をもって相当と認める。
2争点(2)(過失相殺)について
(1)甲2,原告本人,弁論の全趣旨によれば,本件事故現場は,幅3m程度の片側1車線の両側に幅約1.5rnの歩道がついた直線で駐車禁止の県道であり,南側の歩道にはアーケードが設置されていること,○○は被告車を上記道路の南側,歩道寄りに被告車を停車して運転席側扉を少し開けてそのそばに立っていたこと,原告は自転車で東から西に向けて上記道路の車道上を走行してきたところ,原告は,被告車と○○が立っていることに気付いていたが,2ないし3m前の被告車と中央線との問にある1m程の間隔を自転車が走り抜けたため,これに続いて同じ所を走り抜けようとしたところ,○○が扉を開けたため,これに衝突して,自転車もろともに路上に転倒したことが認めらしる。
(2)前記(1)によれば,○○が後方を確認することなく,運転席扉を開けたことに,本件事故の原因があることは明らかである。
しかしながら,原告は,車道上を走行し,前方に被告車が停止しており運転席扉を少し開けて○○が立っていることに気付いていたのであるから,○○が扉を附けることは予測できたものであり,前方を自転車が通り抜けたからといって,この予見可能性があったことに変わりはなく,全く落ち度がないとけいえない。とはいえ,○○が後方を確認することは,容易でありかつそうすれば原告が近付いていることは簡単に気付けたのであるから,原告の過失割合は5%にとどまる。
3 前記1のとおり,原告の争いある損害額は(3466393+81]0308+3350000=)1492万6701円であり,前記第2の1(3)の(194357+2250+300=)19万6907円を加算すると,原告に生じた全損害額は(14926701+196907=)151213608円となる。
前記2の過失割合により過失相殺すると,被告の負担すべき損害額は次のとおり1436万7427円である。
15123608×(1-0.05)≒14367427
このうち,前記第2の1(4)の既払い金を控除すると,(14367427-2831642=)1153万5785円となる。
上記損害額のほか,本件訴訟の内容,経過等一切の事情を考慮すると,弁護士費用120万円も原告の損害とみてよいからこれを加算すると,原告の残損害額は(11535785十1200000=)1273万578513となる。
4 よって,原告の本件請求は1273万5785円とこれに対する遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるけれども,その余は理由がないから,主文の,とおり判決する。
奈良地方裁判所民事部
裁判官○○○○
▲ページトップへ戻る