【むち打ち】
これは,医学用語ではなく,受傷機転を示す用語に過ぎません。事故により頸部が過伸展,過屈曲したむち打ち運動後に生じた損傷がむち打ち(損傷)です。
正式には,「外傷性頸部症候群」や「頸椎捻挫」,「頸部捻挫」という診断名がつきます。
【むち打ちの分類と後遺障害認定】
1 頸部周辺の筋肉や靱帯の軟部組織の炎症に止まるもの
頸部に,過伸展や過屈曲が発生しても,その程度がごく軽いものであれば,頸部を囲んでいる筋肉や靱帯の軟部組織がこれを吸収し,症状さえ生じません。
また,軽い程度のものであれば,筋肉や靱帯の軟部組織の部分断裂や出血の障害でとどまるのが大半です。
これが,頸部捻挫全体の約3分の2です。
これらは,受傷後3ヶ月以内に後遺障害を残すことなく,治癒します。
従って,軟部組織の炎症にとどまるものは,後遺障害の対象になりません。
2 脊髄から枝分かれした末梢神経である,神経根に障害を残すもの
傷病名として,頸部捻挫,外傷性頸部症候群,頸椎椎間板ヘルニア,頸椎神経根症等が記載されます。後遺障害14級が認定されるもので,一般的に「むち打ち症」と呼ばれるものは,多くがここに入ります。
後遺障害の対象となりますが,被害者の加齢による変性を原因に,交通事故による外力の加わったことを契機として発症するとされています。
3 脊髄本体に障害を残すもの
傷病名として,中心性脊髄損傷,脊髄不全損傷,頸椎椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄症,後縦靱帯骨化症等と記載されます。
後遺障害の対象となります。
但し,中心性脊髄損傷は,脊髄損傷なので,正確には,外傷性頸椎症候群には,入りません。
当職は,相談に来られた被害者の方が,これは,単なるむち打ちではないと感じ,大阪大学医学部附属病院で,精査していただいたところ,中心性脊髄損傷が判明した事案があります。
交通事故で運び込まれた病院では,簡単に「むち打ち」と決め打ちし,重大な疾患が隠れている場合があります。
4 椎骨動脈やそれと並行して走行している交感神経に障害を残すもの
バレ・リュー症候群などバレ・リュー症候群は,頸部交感神経の異常が原因とされ,麻酔科で,早期に治療を開始すれば,受傷から3,4ヶ月で改善が得られることが多いようです。
そのため,過去には,後遺障害認定12級や14級の認定がなされていましたが,近時では,認定外の結果が多いようです。
これ以外の症状も散見されますが,極めて稀な症例です。
5 その他
a 胸郭出口症候群自賠責では,過去に12級の認定がなされていましたが,現在,自賠責は,非該当の認定をしています。
しかし,直近の裁判例では,12級が認定されており,訴訟で,損害賠償を実現することが必要です。
b 脳脊髄液減少症
自賠責は,脊髄を取り巻く脊髄膜が強力なゴムのような性質を有することから,交通事故を原因とする脳脊髄液減少症の発症を殆どの場合,否定しています。
また,裁判例の多くも脳脊髄液減少症を原因とする損害賠償背級を認めていないのが現状です。
近時,日本神経が症学会で認定基準が発表され,今後,方向性が変わる可能性があります。
【むち打ちで受診する診療科】
むち打ちでは,殆どの場合,被害者は,整形外科を受診しています。交通事故で,搬入される病院の担当医師が救急医や整形外科医であることが多いのが原因でしょう。
弊所では,神経根症状や脊髄関係の症状の場合には,神経内科での受診をお勧めしています。
【むち打ち症の症状経過】
むち打ち損傷では,受傷直後,急性期(受傷直後1週間から1か月くらい),亜急性期(受傷後1〜3か月くらい),及び,慢性期(受傷直後から概ね3か月以上)に特徴的な症状が見られるといわれています。しかし,その病態は多様で,その原因等が解明されているわけではなく,化学的根拠に基づく診断指針も確立していないのが現状です。
参考までに,一般的に言われているむち打ち損傷の症状経過の概要を掲げます。
1 受傷直後
自覚症状(代表的なもの)- 軽い脳震盪
- 頸部軟組織損傷
- 自覚症状なし
- 頭がボーッとする
- 頸部痛・圧迫痛
- 吐き気
- 意識混濁
- 頭痛
- 上肢の痺れ感・脱力感
2 急性期
a 急性期・初発症状(受傷後数時間〜1週間)頸椎支持組織の損傷
自覚症状:頸部痛・圧迫感・緊張感
頸椎運動制限
肩こり
はきけ
上肢のシビレ感
腰痛
など
他覚所見:頸椎運動制限
項頸部筋の圧痛
など
b 急性期:後発症状(受傷後2〜4週間以後)
自覚症状:頭痛
めまい
悪心
耳・眠症状,上肢放散痛
など
他覚所見:知覚障害や神経根症状等の神経学的陽性所見が増加
(椎間板損傷 X線検査上の椎間腔共用化や変形性椎間症所見の出現
急性期の症状−頸部痛・頸部不快感
急性期には,頸部痛・頸部不快感を訴えることが多い。
(むち打ち症の要因)
a 交通事故の事故形態−衝突方向・速度,事故の予測の有無,ヘッドレスの位置,頭部回旋の有無等b 受傷者の頸椎の状態−筋緊張の有無,頸椎症性性変化の有無,椎間板膨脹の有無
これら多くの要因が関連して,傷害が発生していると考えられており,その損傷部位は,一定ではなく,筋肉,椎間板,椎間関節,後根神経根などが提唱されています。
症状発現部位としては,椎間関節が高頻度であるとの見解が有力ですが,
椎間関節の靱帯損傷,関節包損傷,軟骨下骨の損傷等の器質的損傷が発生しているのなら,疼痛は,事故直後に生ずるはずであり,事故後数時間後や翌日に頸部痛が出現すると言った症状を説明出来ません。
また,器質的損傷を生じさせるとは考えにくい低速度での追突事故において,頸部痛を訴える被害者についても説明が困難です。
これ以外にも様々な説が提唱されていますが,未だに医学的に明確に解明されていない状況です。
3 慢性期の症状
a 頸部痛むち打ち損傷後に発生する最も多い症状です。
疼痛発現部位としては,椎間関節,椎間板,頸部の靱帯,筋,筋膜などが挙げられる。
発症の原因には,諸説があるが,未だにその原因,詳細は明らかではありません。
b 頭痛
頸部痛について多い症状です。
頸性頭痛については,後頭部の感覚を支配しているC2神経が圧迫や炎症により刺激され,三叉神経との吻合を解して,三叉神経第1枝領域の痛みとして出現し,頸筋の緊張などによって,頭部の筋も収縮し,後頭神経を絞扼して緊張性頭痛が生じると言われています。
c めまい
目まいには,回転性と浮遊性があるとされています。
@ 回転性のめまいは,内耳障害によって起こるとされています。
A 浮遊性のめまいは,椎骨脳底動脈循環不全,頸部固有受容器異常,後頸部交換神経症が等原因とされています。
d 頭部,顔面領域のしびれ
e 眼症状
眼球及び眼神経に異常がないのに,生じることがあります。主として,三叉神経に支配されるまぶたの運動機能に異常が生じ,これに関連して,眼症状が生じることがあります。
f 耳鳴り,難聴
耳鳴り,難聴が生じることがあります。
被害者にとって,耳鳴りや難聴は,非常に不愉快であり,仕事上にも大きな支障となることが多いので,大問題です。
でも,耳の機能を検査しても,何も出てこないことが多いのが問題です。
有名作曲家が難聴を詐病して,問題となったことがありました。
それほど,難聴であるか否かを立証することは容易ではないのです。
難聴診断の他覚的聴力検査として,次のものがあります。
ABR=聴性脳幹反応 音の刺激で脳が示す電気生理学的な反応を読み取って,波形を記録するシステムです。被害者の意思でコントロールすることはできません。
SR=あぶみ骨筋反射 乳児のあぶみ骨には耳小骨筋が付いてます。台本鏡が襲ってきた場合,この耳小骨筋
とっさに収縮して内耳を保護します。この収縮作用を利用して聴力を検査するシステムです。インビーダンスオージオメトリーで検出します。被害者の医師でコントロールすることができません。
g 吐き気,嘔吐
h 四肢症状
上肢の痺れ感
特定の神経根や脊髄障害との関連を示唆する神経学的異常が存在する場合は少なく,画像検査にて圧迫所見を認めないことが多く,診断を難しくしています。
ご相談は南森町佐野法律特許事務所へお任せください。
電話番号:06-6136-1020
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