第3 前提となる医学的知見について
1 細菌感染症について
(1) 細菌感染症による敗血症の症状について
敗血症は、感染症に起因した炎症性サイトカインを介する全身性の反応である。原発巣や原因菌の違いを超えて、高熱、頻呼吸、頻脈、白血球増加、C反応性蛋白の高値などが顕著である。
ショックが合併すれば、血管拡張性の低血圧、代謝性アシドーシス、急性呼吸促迫症候群、播種性血管内凝固症候群、乏尿、黄疸、消化管出血などを呈し、多臓器不全症候群に陥ると予後は非常に悪い。
原発巣に加えて、
@ 体温>38℃ないし<36℃、
A 心拍数>90/分、
B 呼吸数>20/分ないしPaCO2<32mmHg、
C 白血球数>12,000/μl、<4000/μl
ないし桿状核好中球>10%
の4項目の内最低2つを満たせば、敗血症と診断される。菌血症の有無を問わないが、本邦では、菌血症の証明を重視する傾向が強い。
(2) 診断のポイント
ア 誘因
抜歯、外科的処置、消化器内視鏡、気管視鏡等の後、血管内カテーテル、尿路カテーテル
イ 基礎疾患または状態
高齢者、糖尿病患者、腎透析患者、癌化学療法中、グルココルチコイド使用中、免疫抑制療法中、皮膚化膿症、尿路感染、胆道感染、腹腔内感染のある患者
ウ 上記の条件の下で、(3)に記す症候が認められてときは敗血症が疑われる。
(3) 敗血症を疑わせる症候
@ 高熱(弛緩熱)
A 悪寒、戦慄、悪心、嘔吐
B 頻脈、呼吸促迫
C 顔貌が苦悶様で、何となく重篤な印象を与える。
D 発疹
E 筋肉痛、関節痛
F 血圧下降
G 血小板減少
H 白血球数の増加・減少
I 原因不明の低血糖
J ショック、ARDS、DIC、多臓器障害(MOF)の合併
K 高齢者などでは、不定の微熱が続く場合もあるので注意を要する。
(4) 治療法について
感染症の病態は、微生物の増殖とそれに対する生体反応の複合である。感染症治療の原則は、病原微生物の除去であるが、発熱や腫脹、疼痛、膿性分泌物の増加などの生体側の反応(=炎症反応)の抑制も病態緩和のために行われる。このため、感染症の治療は、
@ 一般対症療法
A 化学療法
B 免疫療法
が行われる。また、これらの複数の治療法を併用して感染症の治療を行う。