医療過誤 大阪の弁護士が最新の医療過誤情報を提供しますj。 本文へジャンプ
医療過誤事件の訴状


平成21年9月18日
大阪の弁護士が医療過誤事件の訴状を公開します。
訴  状

平成XX年XX月XX日

○○地方裁判所 御中

           原告訴訟代理人弁護士(主任)佐  野  隆  久

原告       山 田 花 子 外3名
〒530−0041
大阪市北区天神橋二丁目5番25号若杉グランドビル本館7階
南森町佐野法律特許事務所(送達場所)
電 話 06−6136−1020
FAX 06−6136−1021
原告4名訴訟代理人
弁護士(主任) 佐  野  隆  久

被告  某   市

損害賠償請求事件
訴訟物の価額 金XXXX万XXXX円
貼用印紙額    金XX万XXXX円 請求の趣旨
1 被告は、原告山田花子に対し、金XXXX万XXXX円及び内金XXXX万XXXX円については、平成○○年○月○○日から、内金XXX万XXXX円については、本訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告山田太郎、原告山田次郎、原告山田三郎に対し、それぞれ金XXX万XXXX円及び内金XXX万XXXX円については、対して平成○○年○月○○日から、内金XX万XXXX円については、本訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。

請求の原因

第1 当事者
  1 故山田一郎は、生前、年金の給付を受けながら、実子山田二郎の土木建築業を手伝う一般市民であった。
そして、故山田一郎は、後で述べるように、某市立某病院(診療科目:内科・精神科・消化器科・循環器科・小児科・外科・整形外科・脳外科・皮膚科・泌尿器科・産婦人科・眼科・耳鼻咽喉科・放射線科)で、細菌感染症による敗血症のため、平成X4年X月X8日、死亡した者である。
2(1) 原告山田花子は、故山田一郎の妻であり、故山田一郎の相続人である。
(2) 原告山田一郎は、故山田一郎の長男であり、故山田一郎の相続人である。
(3) 原告山田二郎は、故山田一郎の二男であり、故山田一郎の相続人である。
(4) 原告山田三郎は、故山田一郎の三男であり、故山田一郎の相続人である。
3(1) 原告山田花子は、故山田一郎を2分の1の割合で相続した。
(2) 原告山田一郎は、故山田一郎を6分の1の割合で相続した。
(3) 原告山田二郎は、故山田一郎を6分の1の割合で相続した。
(4) 原告山田三郎は、故山田一郎を6分の1の割合で相続した。
4 被告は、兵庫県某市において、某市立某病院(以下「被告病院」という。)を開設している。

第2 診療の経過について
1 故山田一郎の主な既往症について
(1) 外来について
ア 傷病名:心室期外収縮
開始日:平成6年X月X7日
イ 傷病名:頸椎症
開始日 平成X年6月9日
ウ 傷病名:左内頚動脈瘤
開始日:平成X年X月5日、同年XX月X日
エ 傷病名:狭心症
開始日:平成X年XX月XX日
(2) 入院について
ア 入院の原因となった傷病名:内頚動脈瘤(頸部)
初診:平成X年XX月X日
治療期間:入院・平成X年X月XX日〜退院・平成X年X月X5日
手術日:平成X年X月X6日
イ 入院の原因となった傷病名:膀胱腫瘍
初診:平成X年5月X5日
入院:平成X年5月X8日
手術日:平成X年5月X4日、部分摘出
退院:平成X年6月3日
再入院:平成X年3月XX日(膀胱腫瘍再発)
手術日:平成X年X月8日、膀胱全摘出術、両側尿管皮膚瘻道術
退院:平成X年X月XX日
2 故山田一郎の被告病院への入院の経過
(1) 平成XX年X月XX日、広島へ墓参した。この頃、故山田一郎は、普通の日常生活を送っており、故山田一郎の二男原告山田二郎の建築業の現場の手伝いなどをしていた。
(2) 平成XX年X月X5日、故山田一郎は、頭痛の症状から、独歩により、被告病院に診察に行ったところ、脳外科の△△医師の診察を受け、左脳梗塞との診断を受け、緊急入院させられる。
なお、この時、故山田一郎は、CT写真や血液検査を受けたものの、血液検査の結果を見ることもなく、左脳梗塞の診断を受けたものである。
また、故山田一郎は、この時、杖などの補助具を全く使用する必要のない状態であった。
そして、故山田一郎は、左右の手の握力も十分にあった。また、原告山田花子が故山田一郎の左右の足をつねると、故山田一郎は、両足とも痛みを訴えた。
(3) 平成XX年X月X0日頃から、故山田一郎は、発熱及び背中の痛みを訴えた。なお、熱は、37℃〜38℃であり、この頃背中の痛みを訴え始めていた。
しかし、病院は、故山田一郎に対して、坐薬の処置のみで、血液検査等をしなかった。
(4) 平成XX年X月XX日頃、CT影像の結果から、ほぼ回復と診断された。
なお、この時、原告山田花子は、被告病院から、「CT影像上、脳梗塞の影はない。」旨の説明を受けた。
(5) 平成XX年X月30日頃、発熱及び背中の痛みがある程度治まった。
(6) 平成XX年X月X日、37.5℃の発熱があり、再度検査を要求したが、完治したとの判断により、検査することなく退院した。
なお、この際も、故山田一郎は、補助器具等を使用することなく、独歩により病院の屋外まで出て、自ら運転する乗用車に乗車して帰宅した。
なお、退院時に、故山田一郎は、原告山田花子に対して、「X月X9日から、抗ガン治療のため、再入院の予定である。病院に対して、何度も発熱に対する検査をしてくれと訴えたにもかかわらず、検査してくれない。」と被告病院の対応に疑問を述べ、続いて「他の病院で検査してもらう。血液検査やCT等で検査結果が出ていないにもかかわらず、本当に抗ガン治療が必要なのか疑問だ。被告病院の治療方針には、納得できない。」旨を述べた。
(7) 平成XX年X月3日朝、故山田一郎は、体調の不調を訴え、夕方までベッドから起きあがらなかった。
夕方5時頃、故山田一郎を救急車により被告病院に搬送。
被告病院の医師がCT撮影の結果、右脳梗塞と診断した。
(8) 平成XX年X月5日、再度故山田一郎の頭部のCT撮影。
被告病院から、「はっきりとした脳梗塞は見あたらないが、症状から、このまま、点滴治療を続ける。」旨を告げられる。
(9) 平成XX年X月6日夜、発熱(38℃強)、坐薬で一時熱は下がる。この時、被告病院医師は、原告山田花子に対して、病状の説明等を一切せず、何も言わずに立ち去ろうとしたので、原告山田花子は、被告病医院医師をエレベーターの前まで追いかけて、被告病院医医師に対して、「何とかできないのか。」と言った。
これに対して、被告病院医師は、原告山田花子に対して、「おしっこからの発熱であり、自分で飲食して直すしかない。」旨の返答をしたのみであり、何ら検査等の措置をとらなかった(X回目のフォーカス)。
(10) 平成XX年X月7日〜8日、故山田一郎は、何度も熱の上がり下がりを繰り返した。この頃、大変な下痢をし、オシメをしていたが漏れてシーツを汚すほど水様の下痢便であった。それにもかかわらず、被告病院のとった処置は、坐薬の投薬及び脳梗塞に対する投薬(点滴)のみであった。
(11) 平成XX年X月9日 故山田一郎は、再度発熱するも、坐薬で下げる。この時、故山田一郎は、大変な汗をかき、寝間着及びシーツもベタベタとしており、汗まみれの状態であった。
これを見た原告山田花子は、素人ながらにも、この汗をかいたことにより、新たな脳血栓や心筋梗塞の原因になるのではないかと危惧した。
そのため、原告山田花子は、被告病院に対して検査することを要求した。しかし、病院側は、何の措置もすることなく、2回目のフォーカスの指示をした。
(12) この間、平成XX年X月8日〜9日の間、原告山田花子は、被告病院の看護婦にしばしば内科の診察を依頼するが「先生の指示がないので、勝手にできない。」旨の返事のみで、受け入れられなかった。
また、原告山田花子は、被告病院の看護婦に対して、高熱に対する処置を依頼するも、「医師の指示がないのでこの方法しかない。」旨を返答し、坐薬以外の処置をとろうとしなかった。
原告山田花子は、その度、汗でぬれた寝間着を着替えさせるのに大変な思いをした。
(13) 平成XX年X月X0日 再度発熱(39℃以上)
午後の回診できた被告病院医師他3名は、亡山田一郎の脈を取ることもせず、顔色をちゃんと見ることもなく、ちらっと見ただけであった。
そのため、原告山田花子は、被告病院医師外3名に対して、「故山田一郎の高熱に対して、何かよい方法はないか。」と質問した。
しかし、医師らは、原告山田花子に対して、「自分の力で熱を下げるしかない。熱を下げるのは抗生物質を使えば簡単に下げることはできるが、それを使うとMRSAが発生する虞があるため、使えない。」旨を返答した。
(14) 平成XX年X月X0日午後6時頃、被告病院の看護婦は、原告山田花子に対して、X月XX日午後外来終了後に内科検診をする旨の連絡があった。
(15) 平成XX年X月XX日夜、故山田一郎が依然高熱と背中の痛みを訴えるため、原告山田花子は、ナースセンターに対して、内科の診療を早めてくれるように要求した。
(16) 平成XX年X月XX日午後8時頃、原告山田花子は、被告病院の看護婦に対して、「このまま放置して、生命の保証ができるのか。それでは遅い。」の旨を訴える。
これに対して、午後X2時頃、被告病院の看護婦が故山田一郎に対して、痛み止めの注射をした。
(17) 平成XX年X月XX日午前6時、医師回診、その際に故山田一郎の採血を実施した。
本来、故山田一郎に対しては、同日の午後に診察をすることとなっていたが、既に(16)で述べたとおり、原告山田花子が被告病院看護婦に対して、「このまま放置して、生命の保証ができるのか。」と訴えたことにより、漸く被告病院が診察の予定を繰り上げて午前中に故山田一郎に対する診察を行ったものである。
この時、被告病院は、未だ故山田一郎が危急の状態にあることを全く把握していなかった。
(18) 平成XX年X月XX日午前9時頃、被告病院の看護婦が原告山田花子に対して、「疲れているようだから、家に帰って休んだら」と言われる。この時、被告病院の看護婦は、故山田一郎の食事等の様子を聞くこともせず、故山田一郎に対する観察を全く怠っていた。
原告山田花子は、医師、看護婦に、患者の現状に対する危機感が全く感じることができなかった。
(19) 原告山田花子は、被告病院側から、平成XX年X月XX日午後3時、採血結果、CRP定量値30mg/dl以上(正常値0.6mg/dl以下)と知らされる。また、この時の白血球数は、23000/μl(正常値4000〜9000/μl)であった。
この値は、細菌感染症による敗血症を起こしていることが明らかな数値である。
被告病院は、故山田一郎に対して、漸く抗生物質投与を開始した。
被告病院の医師は、原告山田花子に対して、「2,3日遅れていたら、手遅れの可能性があった。」旨を伝えた。
(20) 平成XX年X月X3日夜、39℃以上の高熱が続くため、ナースコールをする。痛み止め、解熱注射がなされる。しかし、37℃〜38℃までしか下がらなかった。この時、原告山田花子、原告山田一郎及び原告山田二郎らが同席していた。
被告病院の研修医が回診。この際、医師が、原告山田花子、原告山田一郎及び原告山田二郎らに対して、「こんなにひどい状態になっているとは知らなかった。」と言った。
(21) 平成XX年X月X4日、被告病院内科担当医師から原告山田花子、原告山田一郎及び原告山田二郎らに対して、次の説明があった。「胆嚢管結石の疑いがある。また、敗血症のため肺に水がたまっている。細菌培養の検査中、まだ結果が出ていない。血小板数値が減少し、29000になっている。」
しかし、この時、敗血症についての具体的な説明は全くなく、医療知識の全くない原告らは、敗血症を「肺血症」であって、肺に水がたまる病気と誤認識した。
(22) 平成XX年X月X4日、被告病院脳外科医師から、原告山田花子、原告山田二郎及び原告山田一郎らに対して、「車いすでも移動できない寝たきりの状態になる。それでもいいか。」と述べた。
これに対して、原告山田花子は、被告病院脳外科医師に対して、「元の形に返せとまでは言わない。どんな状態でもよいから、生かしてほしい。後のケアは、私でする。自分の口から飲食できる状態にしてほしい。」と述べた。
この言葉に対して、被告病院脳外科医師は、原告山田花子らに対して、「わかりました。」と述べた。
(23) また、被告病院脳外科医師(内科医師も同席)は、原告山田花子、原告山田二郎及び原告山田一郎らに対して、「前日撮影のMRIとCTの結果、左半身麻痺の原因となる血栓などは、見あたらない。しかし、血栓跡が見られ、それが原因となって左半身麻痺と見られる。また、膀胱癌転移による余命はいくばくもない。」旨説明した。
被告病院泌尿器科医師は、原告山田花子、原告山田二郎及び原告山田一郎らに対して、「内科治療が終わり次第、抗ガン剤治療に移る。抗ガン剤の効果が有れば、2〜3年の余命である。」旨説明した。
(24) 平成XX年X月X4日午後12時頃、故山田一郎は、全身の痛みを訴え、39℃の高熱を発する。ナースコールし、被告病院の看護婦が解熱剤及び痛み止めを注射した。
(25) 平成XX年X月X5日午前9時頃 被告病院内科医師が次のように説明する。「(故山田一郎は、)肝臓が弱り、黄疸がひどくなっている。球菌による敗血症がひどいため、ICUで24時間透析による血液浄化を行う。血小板数値は、依然低下傾向であり、20000である。従って、血小板輸血による血小板の補充を行う。」
同日午後1時頃、故山田一郎をICUに移動。治療内容は、原告らには、不明。
(26) 平成XX年X月X6日午後2時頃、原告山田二郎は、故山田一郎と透析治療中に面会した。この時、被告病院内科医師は、「細菌検査が出た。MRSA感染と判明した。そのため、個室に隔離する。透析及び血小板輸血は、続ける。抗生物質を投与する。」旨を述べた。また、被告病院看護婦は、原告山田二郎に対して、「血小板値が10000前後である。」旨を述べた。
原告山田二郎は、被告病院医師に対して、「発熱時、既にMRSAに感染していたのではないか。」と追及した。
これに対して、被告病院内科医師は、原告山田二郎に対して、「100%とは言えません。」と答えた。
原告山田花子は、被告病院内科医師に対して、「院内感染ではないか。」と質問した。
これに対して、被告病院内科医師は、原告山田花子に対して、「100%とは言えません。」と返答するのみであった。
(27) 平成XX年X月X7日、故山田一郎の容態は少々安定していた。痛感もあり、左右の手足とも動かすことができたので、麻痺は認められなかった。。血小板数値も30000前後と少し上昇した。しかし、黄疸がひどく、胸元及び手足にむくみがあった。
(28) 平成XX年X月X7日午後5時、心拍数の乱れ(不整脈)を原告山田二郎及び山田三郎が確認した。原告山田二郎が被告病院看護婦に心拍数の乱れを伝えるが、「健康体でもあること。ナースセンターで見ているから大丈夫です。」と答えて、その後の措置を全くしようとしなかった。
(29) 平成XX年X月X7日午後6時、原告ら帰宅。
(30) その後、被告病院医師が不整脈(心筋梗塞)と診断し、処置を施した模様である(医師の翌朝の発言)。
(31) 平成XX年X月X8日午前4時頃、被告病院は、原告山田花子らに対して、電話により、故山田一郎の容態が急変した旨及び至急病院へ来るよう伝える。
(32) 平成XX年X月X8日病院到達後、被告病院医師は、原告山田花子、山田二郎及び山田三郎に対して、「(故山田一郎が)昨夜心筋梗塞を起こしたこと、何時発作が起きてもおかしくない状況である。」旨の説明がなされた。
平成XX年X月X8日午後8時30分頃、それまで、故山田一郎は、心拍数140前後の状況であったのが、急に、心拍数急低下の発作を起こす。
その後、被告病院は、故山田一郎に対して、酸素吸入器装着をなし、午前9時頃から、被告病院医師は、故山田一郎に対して、手による心臓マッサージ等の救命措置を始めた。
約1時間の心臓マッサージの後、平成XX年X月X8日午前10時3分、被告病院は、故山田一郎を心停止と判断した。
(33) 平成XX年X月X8日午前10時30分頃、被告病院医師及び医師は、原告山田花子、原告山田二郎及び原告山田三郎に対して、「(故山田一郎は、)MRSA感染による敗血症からの心筋梗塞により、亡くなられました。」と説明した。
(34) 平成XX年X月X6日、被告病院は、原告山田花子、原告山田一郎、原告山田三郎及び原告山田二郎に対して、初めて、「故山田一郎がMRSAの保菌者であること、また、被告病院がその事を見落としていたこと、また、カルテを100%把握することは不可能である。」旨を述べた。
(35) 平成XX年9月、被告病院は、原告山田花子、原告山田三郎及び原告山田二郎に対して、平成XX年X月X6日に説明した内容を再度説明した。
(36) 平成XX年X0月X9日、原告山田花子、原告山田三郎、原告山田二郎及び弁護士崇志が被告病院に対して、故山田一郎の医療過誤を問うたところ、2度目の発熱時に検査をしなかったこと及び退院させた点に医療過誤があることを認め、謝罪があった。

3 故山田一郎の血液検査の主な結果の変遷について
(1) 平成XX年X月X2日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 31.3mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   23000/μl(正常値4000〜9000/μl)
(2) 平成XX年X月X3日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 32.7mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   28100/μl(正常値4000〜9000/μl)
(3) 平成XX年X月X4日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 24.2mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   27700/μl(正常値4000〜9000/μl)
(4) 平成XX年X月X5日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 24.2mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   29800/μl(正常値4000〜9000/μl)
(5) 平成XX年X月X6日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 23.8mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   33100/μl(正常値4000〜9000/μl)
(6) 平成XX年X月X7日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 17.2mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   38400/μl(正常値4000〜9000/μl)
(7) 平成XX年X月X8日採血時の血液検査の結果は次のとおりである。
CRP定量値 7.9mg/dl(正常値0.6mg/dl以下)
白血球数   36600/μl(正常値4000〜9000/μl)

第3 前提となる医学的知見について
 1 細菌感染症について
(1) 細菌感染症による敗血症の症状について
敗血症は、感染症に起因した炎症性サイトカインを介する全身性の反応である。原発巣や原因菌の違いを超えて、高熱、頻呼吸、頻脈、白血球増加、C反応性蛋白の高値などが顕著である。
ショックが合併すれば、血管拡張性の低血圧、代謝性アシドーシス、急性呼吸促迫症候群、播種性血管内凝固症候群、乏尿、黄疸、消化管出血などを呈し、多臓器不全症候群に陥ると予後は非常に悪い。
原発巣に加えて、
@ 体温>38℃ないし<36℃、
A 心拍数>90/分、
B 呼吸数>20/分ないしPaCO2<32mmHg、
C 白血球数>12,000/μl、<4000/μl
 ないし桿状核好中球>10%
の4項目の内最低2つを満たせば、敗血症と診断される。菌血症の有無を問わないが、本邦では、菌血症の証明を重視する傾向が強い。
(2) 診断のポイント
ア 誘因
抜歯、外科的処置、消化器内視鏡、気管視鏡等の後、血管内カテーテル、尿路カテーテル
イ 基礎疾患または状態
高齢者、糖尿病患者、腎透析患者、癌化学療法中、グルココルチコイド使用中、免疫抑制療法中、皮膚化膿症、尿路感染、胆道感染、腹腔内感染のある患者
ウ 上記の条件の下で、(3)に記す症候が認められてときは敗血症が疑われる。
(3) 敗血症を疑わせる症候
@ 高熱(弛緩熱)
A 悪寒、戦慄、悪心、嘔吐
B 頻脈、呼吸促迫
C 顔貌が苦悶様で、何となく重篤な印象を与える。
D 発疹
E 筋肉痛、関節痛
F 血圧下降
G 血小板減少
H 白血球数の増加・減少
I 原因不明の低血糖
J ショック、ARDS、DIC、多臓器障害(MOF)の合併
K 高齢者などでは、不定の微熱が続く場合もあるので注意を要する。
(4) 治療法について
感染症の病態は、微生物の増殖とそれに対する生体反応の複合である。感染症治療の原則は、病原微生物の除去であるが、発熱や腫脹、疼痛、膿性分泌物の増加などの生体側の反応(=炎症反応)の抑制も病態緩和のために行われる。このため、感染症の治療は、
@ 一般対症療法
A 化学療法
B 免疫療法
が行われる。また、これらの複数の治療法を併用して感染症の治療を行う。

(5) 予後について
重症敗血症患者の約20%〜35%、敗血症性ショック患者の40から60%は30日以内に死亡する。他は、その後6か月以内に死亡する。

(6) 予防について
予防は罹患率と死亡率の減少に最も重要である。重症敗血症と敗血症性ショックの多くの発症は院内感染による。これらの症例は、侵襲的処置の回数の低減、血管内または尿管カテーテル使用の制限(期間も含め)、高度の好中球減少の回避及び期間の短縮、局所の感染症の積極的な治療によって防止することができる。抗菌薬又はグルココルチコイドの安易な使用は避けるべきであり、適切な感染症コントロールを行うことが重要である。さらに、迅速なかつ積極的な敗血症患者の管理が必要である。院内感染により発症した重症敗血症、敗血症性ショック患者の50〜70%は、院内で少なくとも1日前は敗血症の軽度の段階を経験していることが知られている。

2 発熱について
(1) 定義
発熱とは、体温調節中枢自体または何らかの生体の反応により熱の算出が放散を上回り体温が正常より高いレベルで維持されている状態をいう。健常者の体温(通常腕窩)は36℃〜37℃の範囲であり、通常は朝が低く、夕方にかけ、上昇し、0.5〜1℃高くなる。腋窩における体温が37℃を超えている状態のときを一般に発熱という。
(2) 病態生理
ヒトは、通常、温度を視床下部と皮膚によって受容し、視床下部を中心とした中枢神経系によって、視床下部温をおよそ37℃、平均皮膚温を34℃に保つよう熱産生と周囲への熱の放散量をバランスさせている。
感染など全身に及ぶ炎症が生じると、細菌由来の内毒素や外毒素の刺激を受けた、マクロファージ、白血球やリンパ球が、IL−1、TFN、IFN、MAP−1などの内因性発熱物質を産生し、この産生された内因性発熱物質は、脳内のプロスタグランジンの精算を促し、直接、あるいは間接的に脳内の視床下部の体温中枢に作用して、体温設定値を高温寄りに変更する。体は、その変更した体温設定値に一致させるべく体内の代謝を増大させ、ひどい場合には、悪寒、戦慄が起こり、体温は上昇し発熱の病態となる。発熱は代謝を高め異物の除去を早めたり、免疫担当細胞の活性を高めるなど、本来合目的な反応である。
(3) 想定される疾患
発熱を伴う疾患は、非常に多彩である。高率に発熱を伴うものの一部を掲げる。
なお、脳梗塞では、発熱は、一般的に見られる症状ではない。
ア 呼吸器症状を伴う疾患(感冒様症状、呼吸苦、チアノーゼ)
@ ウイルス性肺炎
A インフルエンザ
B 細菌性肺炎
C 胸膜炎
D クラミジア肺炎 等
イ 消化器疾患症状を伴う疾患(いわゆる消化器症状を呈するもの、その他)
@ 感染性腸炎
A 急性胆嚢炎、胆道感染
B 肝膿瘍
C 急性ウイルス性肝炎
D 腹膜炎
ウ 皮膚症状を伴う疾患
@ 細菌性感染症
A リウマチ熱
B ツツガ虫病
C 敗血症
エ 脳神経・末梢神経症状を伴う疾患(頭痛、意識障害、傾眠傾向)
@ 細菌性(化膿性)髄膜炎
A ウイルス性脳炎
B 中枢性高熱症−脳腫瘍、脳出血、外傷などの脳血管障害に伴って発症
オ 泌尿器に症状を伴う疾患(排尿痛、頻尿、残尿感、血尿)
@ 急性腎盂炎
A 腎膿瘍、腎周囲膿瘍、腎結核
カ リンパ腫脹を伴う疾患
@ 各種感染症
キ 循環気象上を伴う場合(胸痛、胸部圧迫痛、動悸、失神、心雑音)
@ リウマチ熱
A 感染性心内膜〔黄色ブドウ球菌など、心雑音、心不全、血管塞栓症状(皮膚、粘膜、爪下出血斑)〕
ク 原虫・寄生虫症が疑われる場合(刺し口、特定の地域、海外渡航歴、特殊な食生活)
@ ツツガ虫
A 野兎病
B マラリア
C 旋毛虫症
D ラッサ熱
ケ 自己免疫疾患
コ アレルギー性疾患
サ 中毒性疾患で発熱を伴うもの
@ 解熱剤中毒
シ 内分泌、代謝疾患で発熱を伴うもの
@ 急性腎不全(副腎クリーゼ)
セ その他の著明な高熱を伴う疾患
@ 熱射病
A 悪性症候群
B 悪性高熱症
(4) 診断、検査の進め方
ア 発熱は、感度(sensitivity)は高いが、特異性(specificity)は、低い症状であるため、発熱のみから鑑別を行うことは、特徴的な熱型を示すとき以外は一般的に困難である。そこで、診断のためには、発熱とその他の特異性の高い所見を見出し、組み合わせることが診断のポイントである。
イ 入院で原因不明の発熱を診断する場合
一般の抗生物質の治療に反応しない感染症や感染症以外の発熱疾患を再検討することが必要である。例えば、結核やリケッチア、マラリア、真菌性、寄生虫感染症などがある。
各種の疾患を系統立てて想起し当てはまる症状が少しでもないかもう一度検討し、検査を追加して診断を詰めていくしかない。
ウ 必須とされる検査項目
 一般検査(炎症の有無、特に感染症か否かを鑑別)、(全疾患系で必須とされる)
@ 血液 血球数(白血球、赤血球、血小板)、赤沈
A 血清 CRP
B 一般生化(TP、AST(GOT)/APT(GPT)/γ−GTP、BUN/Cr、ALP/LDH/CPK、Na/K/Cl)
~ 尿検査(泌尿器系で必須、それ以外でも必要とされる。)
氈@心電図(循環器系、神経系、泌尿器系及び原因不明の場合は、必須とされる。それ以外でも必要とされる。)
。 画像診断(神経系を除いて必須とされる)
@ 単純X線検査
A 超音波検査
(5) 発熱診断における注意
体温上昇1℃につき、20%以上代謝がますばかりでなく、不感蒸泄量は、15%程度増加する。幼児、高齢者、慢性消耗疾患、意識障害の場合には、経口摂取の不足が重なり容易に脱水に陥る。放置すれば、ショック、心不全、腎不全となるので、発熱時には、まず脱水状態を速やかに補正することが重要である。そのためには、発熱の診断だけでなく、口渇、皮膚turgorの低下、頻脈、尿量減少、意識障害、尿、血液の浸透圧/電解質異常などの脱水症状の有無・程度にも注意を払う必要がある。さらに41℃以上の発熱は、脳に不可逆的な障害を与えるため、診断を急ぐとともに緊急解熱の適応となる。特に、全身痙攣を呈する場合や熱射病、悪性高熱症、悪性症候群に関しては救急医療の適応となる。
(6) 発熱診断時の解熱剤の使用について
発熱時の解熱剤の使用は、患者の苦痛を軽減させ耐力の消耗を防ぐよい対症療法である。しかし、安易な解熱剤の使用は、熱型を不明にし、免疫力にマイナスに働くばかりでなく、低容量性ショックや重篤な肝・腎臓障害を引き起こすこともある。特に高齢者や脱水時の使用には注意を要する。解熱薬剤は、あくまでも頓用とするのが原則である。

第4 医師の注意義務
(1) 細菌感染症による敗血症に対する医師の注意義務について
ア 医師の患者の敗血症を予防し、迅速に管理する義務
前述のとおり、予防は罹患率と死亡率の減少に最も重要である。重症敗血症と敗血症性ショックの多くの発症は院内感染による。これらの症例は、侵襲的処置の回数の低減、血管内または尿管カテーテル使用の制限(期間も含め)、高度の好中球減少の回避及び期間の短縮、局所の感染症の積極的な治療によって防止することができる。抗菌薬又はグルココルチコイドの安易な使用は避けるべきであり、適切な感染症コントロールを行うことが重要である。さらに、迅速なかつ積極的な敗血症患者の管理が必要である。院内感染により発症した重症敗血症、敗血症性ショック患者の50〜70%は、院内で少なくとも1日前は敗血症の軽度の段階を経験していることが知られている。
従って、医師は、患者の細菌感染症による敗血症の予防を行う義務がある。
また、患者が敗血症に発症した場合には、迅速かつ積極的な敗血症患者の管理を行う義務がある。
イ 医師の細菌感染症患者の診断義務
医師には、敗血症を予防する義務があり、また、患者が敗血症を発症した場合には、迅速かつ積極的な敗血症患者の管理が必要であるから、その前提として、医師は、迅速かつ的確に、患者が細菌感染症であるとの診断を行う義務がある。
ウ 医師の検査義務
医師が迅速かつ的確に患者の細菌感染症であるとの義務がある前提として、医師は、患者に対する問診を的確に行い、必要な検査を行う義務がある。

第5 本件医療機関の注意義務違反
1 細菌感染症を防止する義務の違反について
故山田一郎は、平成X年X月に膀胱の全部的手術を受けており、細菌感染症に罹患する可能性の高い患者であった。
従って、被告病院は、この事実を熟知していたのであるから、故山田一郎が細菌感染症に罹患しないように十分に注意を払う義務があったことは明らかである。
それにもかかわらず、被告病院は、血液検査さえ行わなかったのであるから、被告病院は、故山田一郎の細菌感染症を防止する義務を怠っていたことは明らかである。
2 血液検査等の必要な検査を実施しなかった注意義務違反
前述のとおり、医療機関(医師)としては、医療行為当時の医療水準に照らして相当な検査を実施する義務がある。
ところで、血液検査の項目中CRP定量値や白血球量の検査は、通常、医療機関で一般的なされている検査であるから、本件においても、医療行為当時の医療水準に照らして相当な検査に当たる。
本件では、平成XX年X月20日頃、故山田一郎は、発熱している。それにもかかわらず、被告病院は、平成XX年X月2日、故山田一郎が完治したとして、発熱しているにもかかわらず、退院させた。
よって、被告病院が血液検査を適切な時期に行わなかった点に過失があることは明らかである。

第6 故山田一郎の死亡の結果の発生
以上のとおり、被告病院が故山田一郎に対する検査義務を怠り、また、細菌感染症及び敗血症に対する診断をなさなかったという過失により、故山田一郎は、細菌感染症による重篤な敗血症を原因として、平成XX年X月X8日死亡したものである。

第7 因果関係
前述の被告病院の検査が適切になされておれば、故山田一郎が死に至ることはなかったのであるから、被告病院の過失と故山田一郎の死の結果との間に、因果関係があることは明白である。

第8 不法行為責任
 1 以上の被告病院の故山田一郎に対する診療行為は、故山田一郎に対する不法行為責任(民法709条)を構成するものである。

第9 使用者責任
 1 被告は、被告病院の開設者であるから、その業務に関して、被告病院医師を使用していたのであるから、被告は、被告病院及び被告病院医師に対して、指揮監督義務があったことは明らかである。
2 また、被告病院及び被告病院医師による故山田一郎の生命に対する侵害行為は、被告病院の事業執行についてなされたものである。
3 よって、被告は、原告に対して、被告病院及び被告病院医師の不法行為について、使用者責任(民法715条)を負う。

第10 損害
1 積極損害
(1) 葬儀関係費                  金X00万円
故山田一郎の社会的地位を勘案して一般に正当と認められる基準によった。
(2) 弁護士費用  後述する。
2 消極損害
ア 死亡による逸失利益
年金逸失利益                 金X05X万X9X0円
死亡前故山田一郎が受けていた年金額      年X50万0X0X円
死亡時の故山田一郎の年齢(6X歳)の平均余命       XX年
右年金につきXX年分。ただし中間利息をライプニッツ方式で控除する。
なお、XX年に相当するライプニッツ係数は、XX.6X95である。
よって、故山田一郎の死亡時における年金逸失利益の現価は、次の式により算定できる。
X50万0X0X円×XX.6X95=XX53万663X円
(端数切り捨て)
ところで、故山田一郎は、既に死亡しているので生活費の控除が必要であるが、年金を既に受給している世帯主である故山田一郎の生活費の控除は40%が相当である。
従って、生活費控除後の逸失利益は、次の式によって算定できる。
XX53万663X×(1−0.4)=X05X万X9X0円
(端数切り捨て)
3 死亡慰謝料                    金X600万円
故山田一郎は、善良なる一市民として、社会に貢献し、家庭の支柱として、子から信頼され、頼られてきたのに、突然の事故によって帰らぬ人となった。残された遺族の悲嘆は計り知れず、突然の不幸によって一家の支柱を失った家族の悲しみの深さを思うと、金銭にてこれを慰謝し得ぬことは明らかであるが、敢えてこれを金銭的に算定するならば、上記の金額程度が妥当である。

4 以上に対する弁護士費用                金365万円 
原告らは、当代理人ら両名に対し、大阪弁護士会報酬規定に基づき、本件訴訟追行を依頼した。従って、本訴訟提起時における相当因果関係ある弁護士報酬の金額は、上記金額が相当である。

5 損害額の総額 金XXXX万X9X0円
(相続持分の端数処理により、請求の趣旨では、
           金XXXX万X9X9円となる。)
第11 相続
1 故山田一郎が死亡したため、上記損害額について、原告山田花子が2分の1の割合で相続し、その余の原告が各6分の1の割合で相続した。
2 よって、原告は、不法行為責任及び不法行為の使用者責任に基づき、次のとおり請求する。
(1) 被告は、原告山田花子に対し、金XX0X万XXX0円及び内金XXXX0万XXXX円については、平成XX年X月X9日から、内金XXX万XXXX円については、本訴状送達の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告山田一郎、原告山田二郎、原告山田三郎に対し、それぞれ金X0X万XXXX円及び内金XXX万XXX0円については、対して平成XX年X月X9日から、内金X0万XXXX円については、本訴状送達の
日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

請求原因関連の事実

第1 被告病院の回答書の不誠実さについて
被告病院代理人は、平成XX年X月3日付ファックスによる送信文書で、回答書(C3号証)を送付しているところ、当該回答書は、被告病院の医療過誤の責任を回避するがごとき不誠実なものであるので、内容について検討する。
1 故山田一郎の基礎疾患について
被告病院回答書では、「山田氏は、……、その基礎疾患は非常に重篤であったことからすれば、救命できた可能性が高いとは断定できません。」と述べている。
しかし、被告病院が主張する故山田一郎の基礎疾患を理由として、救命できた可能性が高いとは断定できないとの主張は、理由がない。
(1) まず、被告病院回答書では、「当時、山田氏(6X歳)は、膀胱癌術後の再発状態(リンパ節転移、脾臓転移)で」ある旨述べている。
しかしながら、原告らは、被告病院から、故山田一郎がリンパ節転移や脾臓転移であることを知らされていなかった。また、腹部CT画像では、確かにリンパ節の腫れや脾臓の梗塞が認められるが、これらが癌であることの確定診断は何らなされていない。CT画像は、単に臓器の影をとるに過ぎず、その原因を確定できるわけではない。特に、本件では、故山田一郎は、細菌感染症を原因とする重篤な敗血症に陥っていたのであるから、その影響等から、リンパ節の腫れや脾臓梗塞を招いた可能性が大きい。
従って、故山田一郎のリンパ節の腫れや脾臓の影は、癌の転移とは必ずしも言えず、進行癌(術後再発、遠隔転移)でない可能性が非常に高い。
よって、被告病院の主張は、理由がない。
また、進行癌であるがために、故山田一郎の長期生存が期待できない旨の被告病院の主張は、単に、被告病院の医療過誤の責任を回避するための作り話でしかない。
また、仮に、リンパ節や脾臓への癌の転移であっても、膀胱癌手術から7年を経過しており、極めて遅い進行の癌であると考えられる。とすれば、被告病院が主張するような故山田一郎の長期生存が期待できない旨の主張は、理由がない。
(2) 被告病院回答書では、故山田一郎が「両側脳梗塞」である旨を述べている。
しかし、これは、被告病院の明らかな誤診である。
確かに、故山田一郎は、右腕の痺れ等を理由として、被告病院での診療を受けたが、故山田一郎には、頸部に既往歴や狭心症の既往歴があり、かつ、CT画像やMRI画像でも、脳梗塞の徴候が見られなかったのである。
従って、被告病院が故山田一郎に対して、「左脳梗塞」との診断を下したのは誤りであった可能性が非常に高い。
なお、頸椎症でも、四肢の痺れなどが症状として表れるのであるから、既往歴のある頸椎症を除外していない被告病院の診断には、誤りがある。被告病院は、脳の疾患であることに固執した可能性が高い。
(3) 被告病院回答書では、故山田一郎は、「ベッド上で寝たきり状態」であった旨述べている。
しかし、故山田一郎は、被告病院の看護記録にもあるように、独歩で被告病院へ出向いて、入院したのであるから、明らかに被告病院の誤った認識である。
(4) 被告病院回答書では、被告病院は、少なくとも、故山田一郎が「易感染状態」にあったことを認めている。
であるならば、何故、故山田一郎や原告らが、故山田一郎の発熱や全身の痛みを訴え、検査をするよう、しばしば懇願したにもかかわらず、それを無視しつづけ、感染症から重篤な敗血症に陥る状態まで放置した被告病院の違法性及び過失は、当然に肯定されるものである。
(5) 被告病院回答書では、「高齢者のMRSA敗血症の予後は非常に悪く、『高齢者の場合はほぼ40%が2週間以内に死亡している。』…」と主張する。
確かに、この主張は、文献からの引用であり、内容に間違いはないと思われる。
しかし、一旦、高齢者がMRSA敗血症に陥れば、死亡する可能性が高いのであれば、尚更、医療機関である被告病院は、MRSA敗血症に陥らないように予防することが重要なのである。また、敗血症に陥ったときであっても、前述のとおり、重症に陥らない段階で抗菌薬の併用などの措置をとれば、救命率が上昇することは明らかである。
本件では、被告病院が故山田一郎の血液検査などの必要な検査をすることなく、また、軽率にも退院させたことに重大な過失が存在するのである。
従って、高齢者のMRSA敗血症の予後が非常に悪いことをもって、被告病院の責任を軽減させる理由とはならないことは明らかである。
2 被告病院回答書は、「現時点で是認しうる損害額としては、適切な治療を早期に実施することの期待権侵害ないし進行癌罹患状況での延命利益侵害による慰謝料の限度に止まる。」旨を主張する。
しかし、前述のとおり、被告病院の過失は明らかであり、また、進行癌であることは非常に疑わしい。
よって、被告の延命利益侵害による慰謝料に止まるとの主張は、理由がない。

(文中の氏名は,全て偽名です。) 証拠方法
A1 甲A第1号証
(標 目)      看護記録(X月XX日の頁)
(原本・写しの別)  写し
(作成年月日)    平成XX年X月XX日
(作成者)      被告病院の井上看護婦、有本看護婦
(立証趣旨)     故山田一郎が平成XX年X月XX日独歩により入院したこと

A2 甲A第2号証
(標 目)      脳外科外来診療録(表紙)
(原本・写しの別)  写し
(作成年月日)    平成XX年X月X日〜平成XX年X月XX日
(作成者)      被告病院脳外科
(立証趣旨)     故山田一郎に頸椎症等の既往歴があること

A3 甲A第3号証
(標 目)      脳外科入院診療録(平成XX年X月X5日入院、平成XX年X月X日退院のもの、表紙)
(原本・写しの別)  写し
(作成年月日)    平成XX年X月X5日〜平成XX年X月X日
(作成者)      被告病院脳外科
(立証趣旨)     故山田一郎が平成XX年X月X日退院したこと

A4 甲A第4号証
(標 目)      脳外科入院診療録(平成XX年X月3日入院、平成XX年X月XX日内科へ転科のもの、表紙)
(原本・写しの別)  写し
(作成年月日)    平成XX年X月3日〜平成XX年X月XX日
(作成者)      被告病院脳外科
(立証趣旨)     故山田一郎が平成XX年X月X日退院した翌日の平成XX年X月3日に再入院したこと

A5 甲A第5号証
(標 目)      診療録(継続紙)
検査結果報告書(統合伝票)
(原本・写しの別)  写し
(作成年月日)    平成XX年X月XX日
(作成者)      被告病院中央検査部
(立証趣旨)
1 被告病院が故山田一郎が平成XX年X月X日以降、平成XX年X月XX日に初めて血液検査を実施したこと(平成XX年X月XX日に至るまで血液検査を実施しなかったこと)
2 平成XX年X月XX日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         31.3mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    23000/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    78000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
3 以上の血液検査結果から、故山田一郎は、重症敗血症に陥り、DIC(播種性血管内凝固症候群に陥っていたこと)
注 播種性血管内凝固症候群
基礎疾患があり、血液凝固性が高まり、末梢血管内に多数の微小血栓を生じ、多臓器の障害を来すとともに、凝固因子が消耗されて同時に出血傾向を示す病態。血栓と出血傾向が同時に存在することを特色とする。

A6 甲A第6号証
(標 目)      検査成績貼付台紙
(原本・写しの別)  写し
(作成年月日)    平成XX年X月XX日〜平成XX年X月X9日
(作成者)      被告病院内科
(立証趣旨)
1 被告病院が故山田一郎が平成XX年X月X5日以降、平成XX年X月XX日に初めて血液検査を実施したこと(平成XX年X月XX日に至るまで血液検査を実施しなかったこと)
2 平成XX年X月XX日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         31.3mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    23000/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    78000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
3 平成XX年X月X3日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         32.7mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    28100/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    47000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
4 平成XX年X月X4日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         24.2mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    27700/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    29000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
5 平成XX年X月X5日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         24.2mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    29800/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    21000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
6 平成XX年X月X6日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         23.8mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    33100/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    13000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
7 平成XX年X月X7日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値         17.2mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    38400/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    31000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
7 平成XX年X月X7日当時、故山田一郎の血液検査の結果が次のとおりであったこと
(1) CRP値          7.9mg/dl
(基準値 0.4〜0mg/dl)
(2) WBC(白血球数)    36600/μl
(基準値 9000〜4000/μl)
(3) PLT(血小板数)    37000/μl
(基準値 300000〜130000/μl)
8 以上の血液検査結果から、故山田一郎は、重症敗血症に陥り、DIC(播種性血管内凝固症候群に陥っていたこと)に陥り、そのまま回復することなく死亡するに至ったこと
9 重症敗血症と故山田一郎の死との間に因果関係が存在すること


A7 甲A第7号証
(標 目)      陳述書
(原本・写しの別)  原本
(作成年月日)    平成X5年9月XX日
(作成者)      原告
(立証趣旨)    1 被告病院の診断過誤
2 被告病院の診療過誤
3 被告病院の診断過誤及び診療過誤と故山田一郎の死亡との間の因果関係

B1 甲B第1号証
(標 目)      からだの通信簿(Newton5月号増刊)
(39頁〜42頁、53頁〜55頁)
(原本・写しの別)  原本
(発行年月日)    2002年5月7日
(発行所)      株式会社ニュートンプレス
(著 者)      北村 聖(東京大学大学院医学系研究科助教授)
(立証趣旨)
1 敗血症の診断基準(故山田一郎に対する診断過誤)
(1) 白血球数 10,000〜50,000/μl
感染症(細菌、ウイルス)
(2) CRP 1mg/dl以上(中程度の上昇) 細菌感染症
10mg/dl以上(高度の上昇) 重症細菌感染症



B2 甲B第2号証
(標 目)      臨床検査ガイド(2001〜2002)
(206頁〜208頁)
(原本・写しの別)  原本
(発行年月日)    2002年5月7日
(発行所)      株式会社文光堂
(編 者)      和田 攻(埼玉医科大学教授)他
(立証趣旨)
1 敗血症の診断基準(故山田一郎に対する診断過誤)
(1)ア CRP 1mg/dl以上
(方針)炎症疾患、組織破壊の可能性あり
(高頻度に見られる疾患)細菌感染症
イ CRP 10mg/dl以上
(方針)重症細菌感染症の可能性あり、入院を考慮する
(高頻度に見られる疾患)重症細菌感染症)
(2) 血清CRPが異常となる疾患
ア 高値(陽性)
 高度上昇(10mg/dl以上)
重症細菌感染症
~ 中等度上昇(1mg/dl以上)
細菌感染症

B3 甲B第3号証
(標 目)      標準感染症学(50頁〜108頁)
(原本・写しの別)  原本
(発行年月日)    2001年1月6日
(発行者)      株式会社 医学書院
(編 集)      齋藤 厚(琉球大学教授、内科)
那須 勝(大分医科大学教授、内科)
江崎 孝行(岐阜大学教授、微生物学)
(立証趣旨)
1 被告病院の診断過誤及び診療過誤
(1) 感染症治療の基本(50頁右段本文7行目〜)
ア 基本となる考え方
イ 感染症であることの確認
ウ 感染臓器の確認
エ 原因微生物の確認
オ 感染症の重症度の評価
カ ホスト状態の評価
(2) 治療法の種類(53頁左段1頁〜)
(3) 一般療法(56頁右段本文1行目〜)
ア 一般療法の種類
イ 一般療法
ウ 対症療法
エ 外科的療法
オ 特殊病態下の感染症患者の一般療法
 高齢者(58頁右段本文6行目〜)
(4) 化学療法の原則(61頁左段本文25行目〜)
ア 抗菌薬の適応の決定
 細菌感染症の場合
~ 細菌感染症が疑われる場合
○ 重症で緊急性を要する場合(61頁右段26行目〜)

B4 甲B第4号証
(標 目)      2003今日の治療指針(私はこう治療している)
(161頁〜162頁)
(原本・写しの別)  原本
(発行年月日)    2003年1月1日
(発行者)      株式会社 医学書院
(編 集)      山口 徹(虎ノ門病院長)
北原 光夫(東京都済生会向島病院長)
(立証趣旨)
1 敗血症の意義・症状
2 敗血症の診断基準(故山田一郎に対する診断過誤)

ここに本文を書きます


サイト管理者
南森町佐野法律特許事務所

弁護士 佐野隆久






   

Copyright © 2008- 佐野隆久 All Rights Reserved.